ケイちゃん十九の夏・北海道
ケイちゃんが北海道のおばちゃんちに行った時、おばちゃんはケイちゃんを車に乗せて、そこら中に連れて行ってくれた。隣近所から始まって、ずいぶんたくさんの友人知人の家を回った。
近所と言っても、一番近い隣の牧場でさえ一キロくらい離れている。「遠い近所」は、時間にして一時間くらい離れている。内地とはスケールが全然違う。
そして、行く先々でおばちゃんは、こう言って回った。
「この子は弟の娘で、内地から遊びに来たんさ。まだ、十九だべさ。」
ケイちゃんは、おばちゃんは、なせ゛そんなことを言うのだろうと不思議な気がしたが、その理由は次の日の夜に分かった。次の日の夜、おばちゃんの息子の達也さんの友達が十人くらいやって来た。友達は皆こう言っていた。
「内地から嫁っ子が来た。」「達也の嫁っ子が来た。」
おばちゃんは世間の人のこういう誤解を恐れていたのだ。ケイちゃんは、まだ十九歳だったのでびっくりした。その気はないけど「北海道にお嫁に行く。」などと言ったら、父も母も腰を抜かしてしまうに違いない。そう考えると思わず、声を出して笑ってしまった。
ケイちゃんの北海道②
ケイちゃんが北海道に行ってさんざん、おばちゃんの世話になったので帰りにお金を渡そうとしたら、当然のことながら、この年の若い姪からおばちゃんはお金を受け取りはしなかった。
「その代わり、七福神の掛け軸があったら、送ってちょうだい。」とおばちゃんは言った。
ケイちゃんは骨董品屋に探しに行ったがなかった。画廊や画商をあちこち回ってへとへとになったが、七福神の掛け軸はなかった。
とうとう、最後に神宮の参道沿いの土産物屋で七福神の掛け軸を見つけた。店員に値段をたずねたら、七百円と言われた。
七福神だけに七百円か。一人の神様が百円か。などと、ばかな考えをめぐらしながら、結局、北海道のおばちゃんへのお礼は七百円となった。掛け軸の送料は1200円だった。
安いお礼となったが、若いケイちゃんからの贈り物をおばちゃんはとても喜んでくれた。