ザ・プロレスラー⑮律儀だっ‼全力疾走するラッシャー木村。

 

ヒール、ベビーフェイスの別を問わず正しくあるべきはずのプロレスラーのレイゾン・デイトル(存在理由)が、時として、貶められることがある。いや、ヒール(悪役レスラー)にだって、レイゾンデイトルはあるのだ。

しかし昭和56年の、世に言う「9.23田園コロシアム今晩は事件」のラッシャー木村はそれをみうしなって迷走した。おそらく、その夜は彼自身も何のために自分が新日本プロレスのリング上に立っているのか理解しようとしなかったのかも知れない。その場にいた国際プロレス(既に倒産していた)のアニマル浜口が慌てて木村からマイクを奪い取り、「猪木出て来い!俺たちと勝負しろ」と乱入の目的についてヒールらしく絶叫したが、時すでに遅く、新日ファンの失笑を買った後だった。

また、後年、全日本プロレスにも木村は「乱入」と言う名目で移籍を果たすが、人の良い木村はここでも、同じようにリング上でマイクをつかんだまでは良かったが、必要以上に丁寧なご挨拶をリング上でやらかしてしまう。どこへ行っても、時代が移っても、ぶれない木村の律儀さが好きだ。

後に全日名物「ラッシャー木村のマイクパフォーマンス」は、この時、誕生した。彼こそが、世界で初めてリング上で対戦相手に向かって、「誕生日おめでとう!」と祝福をした唯一のプロレスラーである。律儀だ。律儀と言う一点にラッシャー木村のレイゾン・デイトルはあるに違いない。