〈プロレス・ファン〉

 
プロレスファンの間には「暗黙の連帯感」がある。「プロレス会場で、二回会ったら友達で、三回会ったら、親友だ。」と言うものだ。

ミュージシャンのコンサートやライブ会場に行くファン心理に似ている。同じ目的を持った者どうしが同じ場所で同じ時間を共有するのだから、結果はさもありなん、だ。

しかし、プロレスの場合はファンどうしでも対戦する選手それぞれのファンが敵対すると思われがちではないだろうか?心配無用だ。プロレスファンは大人だ。そういう不安はない。

ファンは、会場には大抵一人で来る。レアーケースでも、せいぜい恋人どうしの二人連れ程度だ。プロレスファンはある意味孤独だ。
サッカーファンのように判定に不満を抱き暴動を起こしたりはしない。また、相手(のチーム)に対して喧嘩をしかけるファン(サポーター)もいない。
     
判定以外の事に腹を立てての暴動はある。出場予定の選手が突然欠場したり、カード(取り組み)が変更された場合である。また、余りにも短い時間で試合が終了したりした場合は、へたすると暴動になる。その時必ずこう言う。
「金返せ!!」
プロレスファンは意外とケチだ。ペイした対価に見合う試合内容レベル未満の試合を見せられると怒る。        暴動までは行かなくても、会場でにわか友達やにわか親友になった者どうしで愚痴り合う。曰く。
「今日の猪木の6人タッグはねえよなあ。いくら、ノーテレビマッチ(テレビ放送しない地方会場での試合のこと。)とはいえ、リングでの仕事はたったの10秒。あとは藤波と越中に働かせて、自分は、1、2、3、ダアーッあれだけ。つまんねえ。来週は馬場さんの方を見に行こうぜ。」 
プロレスファンは意外と変わり身が早かったりする。
ケチで寂しがり屋で意外と平和主義者の人物が回りにいたら、尋ねてみると良い。「プロレス・ファンでしょ?」
答えは、イエスのはずだ。