その人が、所有する市内一等地の遊休不動産を売った。自宅は郊外にあった。不動産取引後、彼は土地売却代金を全額預金すると電話をしてきた。訪問して筆者は奇異な感じがした。

土地代現金5000万円と、3通の約束手形、内訳は2000万円2通と1000万円1通。しかも、手形の期間は6ヶ月、9ヶ月、1ヶ年だ。聞けば買い手は市内不動産屋某で「金額が1億円なので半金半手にしてください」と言われてキャッシュ5000万円、手形5000万円を持ちかえったそうだ。

「半金半手」とは、半分を現金(振込)で、残り半分を手形で支払うという支払方法のことだ。

不動産取引で半金半手なんか聞いたことがない。半年から1年の手形なんか、詐欺師が土地を転売して逃亡するのに十分だ。筆者はすぐに弁護士さんに相談して手を打ちましょうと提案した。彼は6ヶ月様子を見ようと言った。それは甘いと筆者は思ったが彼には思惑がありそうだった。

果たして6ヶ月後、2000万円の約束手形は無事落ちた。しかし、案の定、残りの2通はやはり不渡り手形で返却された。付箋の付いた手形を筆者に示し彼は言った。

 「私はあの土地は元々、5000万円以下の値打ちしかないと思っている。前の道は二項道路(建築基準法42条第2項に規定される狭い道の事。この道に面すると建築制限が付くので土地の価値は低い)だし、他の業者に聞いても5000万円はしないと言うことだった。彼は、一息ついて驚くべき事を言った。

 「実は、あの不動産屋の某は私の小中学校時分からの友人だった。彼が何故今回こんな手の込んだ事をしたのか、私には分からない。彼にどんなバックが付いていて彼にどんなメリットがあるのか興味もない。ただ、私は遊休土地の固定資産税を納めるのが面倒だったし、あいつ(不動産屋某)の役に立てばそれでいい」

筆者は違和感を覚えたものの、彼に被害者意識がない事が救いだった。しかし、不動産屋某は2回の不渡りを出し、銀行取引停止処分となる前にこの町から姿を消した。行方は知れない。

不渡り理由は「資金不足」だった。