ヒデキ・ボンバイエ

五月二十六日、青山葬儀場前を車で通りかかった国会議員は沿道から群衆が自分の名前を連呼している声を聞いた。

議員はすぐ車を停めさせて、秘書の制止を振り切って自分の名を呼ぶ群衆の方に向かった。
群衆の声に向かって手を振りながら、いつものように、
 
「元気ですかーっ‼1‼2‼3‼ダーツ‼」
 
と大声で叫んだ。
 
群衆は誰一人、国会議員を見なかった。
まるで無視した。
議員は焦り、訝り、怒った。
秘書が飛んできて説明した。
 
「先生‼あれはイノキ‼じゃなくて、ヒデキ‼と言ってるんです。」
 
その日は西城秀樹さんの告別式だった。