講道館の浅見先生について

ボクは杉並の浅見先生の道場にしばらく通っていた

先生は時々昔話をしてくださった

四国出身の強い男がかつて浅見道場に通っていた

ある時、警察から連絡があり呼ばれた

その弟子がトラックの運転手と喧嘩をしたと聞かされた

身元引受人が必要だが親は四国にいるからということで

浅見先生を頼ってきたらしい

どんな喧嘩をしたと聞くと盛り場で肩がぶつかったとかでけんかになったらしい

相手は五人ほどで全員足腰立たないくらい投げ飛ばしてやったというので

君は怖いなと先生は言ったという

先生の若いころは立ち合い、試合でけがを負っても文句は言えないし

試合のけががもとで一生、障害を負うことになった人がたくさんいたそうだ

だけど、試合は試合で相手に恨みもないし、結果、障害者になっても

相手を憎むことはなかったそうだ

君は相手を憎み、怪我させてもかまわないと思って投げたろう

それは相手を殺してやろうと思って投げることと変わりがない

わたしはけがをさせようと思って試合したことは一度もない

わたしは相手を倒すとか、傷つける柔道は教えられない

弱い柔道家だが、君はそれでもわたしの道場にこれからも来るのかい

先生はそうおっしゃったところ、

弟子は、申し訳ありません、二度と喧嘩は致しませんと言った

その弟子は卒業して四国に帰っていった

その後どうしているかわからないと先生は言った