じいちゃんは一人で四国で生きていく

確か、四国のじいちゃんが93歳の時に頭の血管が詰まってカテーテルで手術した。高齢のため、リスクは高いとドクターはボクに告げた。岡山の大学病院にお願いしようとも思ったが、逃げない、このお年寄りの病と向き合う。オペはうち(の病院)でやるとドクターは言った。

二ケ所、血管内に異常が見られる。その二ケ所だけなら、今回、一度のオペで終わらせることができるが、もし、三か所以上で異常が認められたら、うちで終わらせることはできない。

ヘリを待機させる。岡山の大学病院へ移ってもらうこともある。そういう風に言われた。じつは、ボクはこの時点で、じいちゃんが大きなリスクを抱えて手術を迎えようとしていることを分かっていなかった。

手術は絶対成功するに違いないし、手術後も2、3日で退院できるのではないかと漠然と考えていた。じいちゃんの年齢が93歳だということも忘れていた。比べたら、じいちゃんよりうんと若いボクのようなものでも脳血管の手術は大変だと思う。

 

だが、じいちゃんには悲壮感はなかった。そもそも、自分の置かれた状況も深刻に理解していなかった。そして、ボクはというと身内だから、仕方なしに東京から戻ってきてじいちゃんの手術に立ち会っているだけだった。

 

ドクターだけが張り詰めていた。

 

果たして、手術は予定よりはるかに短い時間で終わった。約二時間で手術は成功した。

 

患者やその家族が緊張感のない様子で手術を迎えたのに、ドクターは自分でオペをするべきか、他の病院に任せるか、迷いを断ち切り、自分でこの老人の病気を治そうと決断してくれた。ありがたいことだ。