鉄腕アトム「赤いネコ」・1953年に未来(2000年8月7日)を予言した手塚作品

赤いネコ

 

国木田独歩の小説の一節の引用で物語が始まる。

「武蔵野をあるくには道をえらんではいけない。」

 

鉄腕アトム「赤いネコの巻」・1953年作品

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手塚治虫さんが描く西暦2000には、東京は高層ビルとハイウェイでおおわれている。近郊の武蔵野も開発ラッシュで自然破壊が進んでいく。

そんな折、ディベロッパーやゼネコンの社員のこどもたちが次々と「赤いネコ」と名乗る怪人に誘拐される事件が起きる。

 

 

さらに「開発をやめなければ、2000年8月7日に恐ろしいことが起きる。」という不思議な警告が行政庁に送られる。

開発工事は続行されたため、東京中のいたる所にに鳥や獣の大群が押し寄せ、空を街を覆いつくす。人間は動物の支配下に置かれる。人間は動物たちに命をねらわれる。

 

アトムは同級生の四部垣(しぶがき)と共に、一連の事件は開発反対を唱える科学者Y教授のたくらみであることを突き止める。Y教授が「赤いネコ」の怪人に化け、「超短波誘導装置」という機械で鳥や獣を操っていたのだ。

 

赤い猫の巻

 

クライマックスではアトムは、「超短波誘導装置」を破壊し、動物たちを覚醒させ、都民を救出する。教授は、「死んだら土になって武蔵野を守る。」と遺言し、亡くなる。教授の死によって、人々は自然の大切さと怖さを改めて痛感し、やがて行政庁は開発中止を決定する。

 

巻末はまた国木田独歩の小説の文章でしめくくられる。

 

「武蔵野をあるく人は道をえらんではいけない。あしのむくほうへあてもなくあるくことで、、、、、

その道は君をきみょうなところへみちびく、、、、、

そこは森のなかの古い墓場で、こけむした石碑がさびしくうずもれているだろう。

 

武蔵野はほろびないだろう。どんなに文化が進んでも。」

『国木田独歩全集・46作品⇒1冊』

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今見ても、まったく古臭さを感じない都内の高層ビル群やハイウェイ、群衆の描写。そして、作者は自然破壊や気候変動、地球規模の災害などを予言し、警鐘を鳴らす。  

 

手塚治虫さんが「漫画の神様」、「天才」と呼ばれたゆえんである。ただ、時代を感じさせられたのは子供たちのほとんどが小学校の制服すがたで、アトムのクラスメート四部垣少年がパンツじゃなくふんどしを締めていた点である。作品発表時点で昭和28年。日本はまだまだ、貧しかったのだ。

 

 

第39話 盗まれた太陽

鉄腕アトム(1) (手塚治虫文庫全集)