住宅ローンのお客がいた。
ご主人はまじめな二枚目で産業廃棄物収集運搬の会社に勤めていた。奥さんはロシアから帰化した人で目の覚めるような金髪に透き通るような真っ白な肌の美人だった。
漢字が書けないので奥さんは保証人に離れず、ご主人の父親がなった。
住宅ローンを貸出し、新築し、半年が過ぎた頃、ご夫婦が門扉、外構工事の資金を借りに来た。今度は奥さんが保証人になると言った。
不安ながらも申込書を書いてもらった。完璧な字を書いた。バランスと言い、字の正確性と言い、申し分ない字を書いた。
「奥さん、一所懸命、漢字を練習されたんですね。」
と声かけたら、彼女は青い目をくるくるとさせて、
「子供といっしょに練習した。奥さんなのに旦那さんの手助けできないのはだめだから。」
漢字の練習をした方法とその目的について日本語で答えた。それから、住宅ローン契約時に、火災保険に入ってもらっていなかったので新規に入るか、すでに加入契約があれば、それに質権設定させてくれと告げた。
主人は未加入なので銀行の推薦する火災保険に入り、質権設定にも応じると答えた。
ところが、妻には意味が分からない。子供に説明するような言葉で仕組みと住宅ローン利用者の責任について告げた。
意味は理解してくれたが、火災保険料と質権設定費用(当時の金で700円)については、なぜ、お客が払わなければならないか?と言った。
ご主人が、「もういいから。帰ってから話しよう。」と言った。
「だめ!わからないのに、なぜ契約するのか!」
と強硬なロシア美人妻。
もう一回、極力、わかりやすい言葉を使いながら、説明をした。今度は火災保険料の支払いは納得したが、質権の印紙代700円について払う理由が理解できないと言った。
さすがは、北方領土を返さない民族だ。超頑固だ。言うてる場合か
もう一回、質権のない場合と、質権のある場合について説明した。
「いみはわかるけど、銀行の勝手だね。」
と言った。
「そうなんですよ。でも、それが銀行というビジネスなんですよ。」
と告げたら、「いいよ。払うよ。」と言ってくれた。
横でご主人がうなだれていた。「どうも、お手数かけてすみません。」と言った。
700円はつつがなく回収できたが、国後、択捉、歯舞、色丹、いつの日かカエレ。この国に。(なんのこっちゃ)