水木さんの助手をして日当で生活をしていた頃、つげさんが寿司屋で昼食をとっていたら、偶然そこへ予約の折詰を受取りに水木さんがやって来た。
ひどい貧乏生活をしていたつげさんは何か身分不相応で悪いことをしているのを見つかったような気がした。
慌てふためいてその場で棒立ちになって口もきけないでいた。寿司屋の店員が何事かと驚いたほどだったという。
水木さんはというと、チラッとつげさんを見てにこりと微笑んだだけで出て行った。
食事を終えて水木邸へ仕事をするために戻って来たつげさんを水木さんは、

 「あんたがあんなに驚くもんだから、私は自分が刑事になったような気がしましたよ。」

とユーモアで慰めた。


つげさんはこう振り返る。
「その一件以後、苦労人の水木さんに私はあらためて親近と信頼感をおぼえた。」