ボクの編集者

編集者がボクの妻のことを「どう見ても君より二十歳近く年下にしか見えない。」とお世辞を言った。
ボクは、(決してその手には乗らないぞ。)と固く心に誓っていたが、思いがけずそれを妻に話してしまった。
妻は黙っていた。
こういう時の彼女は表情や発言から真意が測れないので注意を要する。

しばらくして妻の部屋をのぞき込んだら、妻は化粧台に座って自分の顔をのぞき込んでいた。
こういう時の彼女は言葉にしないがうれしがっている状態である。
笑い声とか笑顔は見せないが、力いっぱい目が笑っている。
永年連れ添っているため、言葉を発しなくても、飼い主と愛犬のように相手の心情が分かるのだ。
しかし、このたとえは不適切と非難されよう。
ボクが犬で、妻が飼い主だと注釈しておこう。

それにしても、ボクは、編集者には特別、感謝している。
何しろ、夫婦ケンカの仲裁から、嫁さんの機嫌取りまでやってくれる。
学生時代、プレイボーイであった彼ならではの思いやりである。