鉄人と帝王の試合

いつものチャネルで、63年前のルー・セッズ(テーズ)とバーン・ガニアの試合を見た。凄い試合だ。パンチやキックのない試合。ロープワークや肘打ちのない試合。たんたんとキャッチ・アズ・キャッチ・キャン、関節技とヘッド・ロック主体の攻防が続く。

かたや、NWAの鉄人、こなた、AWAの帝王。試合結果は、1本目をルー・セッズがバックドロップで取り、2、3本目をバーン・ガニアがいずれもスリーパー・ホールド(裸締め)で取り、2対1でガニアが勝利した。両者握手でリングを降りた。ノン・タイトル戦だった。ルー・セッズの負けた試合はいつも厳しさと戦慄が走る。これがもし真剣勝負なら、セッズは何回ガニアを殺していただろう。その怖さはガニアが一番良く知っていたに違いない。その後、ガニアは二度とルー・セッズと戦う事は無かった。再びNWAのリングに立つことは無かった。AWAチャンピオンとして20年も君臨したと言うより、セッズの影に怯え二度とセッズとリングでまみえる事をしなかった。
ガニアは晩年老人擁護施設で暮らしたが85歳の時、同施設の97歳の男性をバックドロップで投げ死亡させたと言われている。二人とも認知症を患っていたと言うが、相手の老人に五十年前のルー・セッズの幻影を見てしまったのかも知れない。