指物大工三代目を開業することになった。家には二十個余りのカンナがある。これらはすべて、故初代岩吉のものだ。
元々、納屋の壁に五十個ほどのカンナをぶら下げていた。のこぎり、金づち、きり、千枚通し、曲尺、くぎ抜きは各々三十本以上あった。初代がしんだ時、二代目は四人の兄弟に分け与えた。彼らは遠慮せず、それぞれ自宅に持ち帰った。そのため、二代目は満足に指物大工をすることができなかった。技術があっても道具がなくては家具は作れない。
二代目は廃業した。
三代目の僕としてはリターンマッチだ。二代目の萌芽しなかった指物大工としての仕事をやり遂げたい。そんな気持ちだ。
貧乏するだろうと言う事は十分分かっている。
分かっちゃいるけど止められない。何しろ、これは指物大工業としてのリターンマッチなのだ。