戦争で死ななかったから。
じいちゃんの口癖。
だから、たいていのことは我慢しないとな、といつも言っていた。
じいちゃんの両親が相次いで亡くなった時、兄弟姉妹がそれぞれの配偶者も連れてやって来て、遺産分割を要求したそうだ。
じいちゃんは五人兄弟の年の離れた長男で、小さいころから幼い弟や妹たちの面倒を見て可愛がってきたそうだ。
なのに、じいちゃんの親が死んだときは、普段は寄り付きもしない弟や妹たちがそれぞれの配偶者とともにやって来て、分け前を寄越せと言った。
不思議な事にひいじいちゃんやひいばあちゃんには預金はなかった。
争いごとは避けたいじいちゃんは、ばあちゃんに、「すまんのう。わしの兄弟は、ゴウツクバリで。」と謝って、自分の退職金を下ろして四人に分けてやったそうな。
おかげで、じいちゃん夫婦の手元には古い田舎の土地建物だけが残った。
ばあちゃんは、内心悔しかったと思うが、
「兄弟げんかするより、ええよ。住処が残っただけでもありがてぇがな。」と言って
じいちゃんを慰めた。
そのおかげかどうか、知らんけどじいちゃんは95歳まで、ばあちゃんは90歳まで長生きした。二人とも寝たきりにも認知症にもならなかった。眠るように人生を全うした。
弟や妹たちは、ひいじいちゃんが亡くなった翌年に、みんな死んでしまった。
だから、ボクは金に執着しない。金のことばっかり考えていると命を縮めてしまうような気がするのだ。