じいちゃん。いつまで車を運転するん?と訊ねたら、「人樣に迷惑かけんうちに返納すべきやと思うとるんじゃけど、、、。同級生で返納したら、みんな、次々と死んでいきよるんじゃ。なんか、怖くてのう。」と答えた。
九十二歳の時、1週間で二回事故を起こした。駐車しようとして病院の建物の壁をこすった。いつもの薬局でアクセルとブレーキを踏み間違えてウィンドウに突っ込んだ。
「人をはねたら、いかん。運転免許を返す。警察まで車で連れて行ってくれ。」と言い出した。
返納する時、寂しそうだった。返納証明書とタクシーの年間5000円分の割引券を、後日受けとった。
じいちゃん、不便になったなあとボクが言うと、
「なんしにや!(そんなことない。)もともと、車なんか昔はなかったんじゃ。どこでも歩いて行った。車に乗れた何十年、けがも事故もせんと、便利で幸せやった。
ほんだけど、これからは、もう、いかん。わしが運転して誰かを跳ねたりしたら、取り返しのつかんことになる。これからは、タクシーとテクシー(歩き)で、スローライフじゃ。」
そう言って笑った。それから、また、それまで通り、四国の田舎で一人で生きていった。
じいちゃん、寂しくない?とボクが言うと、
「なんしにや!おまえが毎日、東京から、電話してくれるから、寂しくはねえわ。」と返事した。
三年後の誕生日に亡くなった。九十五歳だった。