ボクはプロレスラーの高山善廣さんに謝らなくてはならない。
米軍横田基地祭りの時、F-1の展示があった。
レーシングカーを基地の敷地内に持ち込んで車体は固定したままで
エンジンをふかしていた。
周りには大勢の人垣ができていた。
レーシングカーのエンジンは巨大な爆音を轟かせていた。
その爆音は基地内のどのイベントよりも大きな音だった。
当日は基地内では様々なイベントが催されており、
複数のロックバンドが大勢の人を集め演奏に興じていた。
しかし、エンジンの爆音が響くたびにバンドの音はかき消されていた。
F-1に群がるオーディエンスは楽しそうに爆音に聞き入っていた。その中に
ひときわ、大きな体躯の青年がいた。それが高山善廣さんだった。高山さんも
夢中で爆音に聞き入っていた。たのしそうな笑顔でエンジンに見入っていた。
ボクはプロレスファンで、高山選手のファイトが大好きで、特にドンフライ戦の高山さんの真っ向勝負には感動した。憧れの高山選手が目の前にいる。ボクはうれしくて舞い上がってしまった。
エンジンの爆音に負けじとでかい声で「高山善廣さーん!!」と呼び掛けた。
断続的に響くエンジン音が一瞬停止した瞬間を狙って大声で呼びかけたのでボクの声はよく響いた。その辺の人たちが一斉に振り返ってボクを見たくらいであった。
高山さんは、人ごみの中で突然フルネームで呼ばれ、びっくりしたような顔をした。それからすぐ人混みを離れ建物の影に姿を隠した。背中を丸めてうつむき、素早くF-1の展示場から離れた。
ボクはハッとした。非常識なことをした。ここはプロレス会場ではない。プライベートで大好きなF-1のレーシングカーを見ていたのに高山さんのじゃまをしてしまった。
あの時の事を思うと今でも心が痛む。
高山善廣さん。申し訳ありませんでした。ごめんなさい。