親譲りの無鉄砲、、、かどうか自分でも分からないが銀行内部でたびたび上司と揉めるので懲罰人事というか報復人事がなされてある時は四国の片田舎の出張所に飛ばされた。そこの五歳くらい年上の出張所長に赴任した夜に赤ちょうちんに誘われた。
田舎だから新任の歓迎会もこんなわびしいものなのかなと思ったがそうじゃない。所長の愚痴、悩み相談会になってしまった。
酒が入ると性格が出ると言うが所長は泣きながら私に言う。
銀行に勤めて二十年、所長は自分たち夫婦と母親の三人暮らしだが亡くなった父親名義の土地の上に建っている古い自宅を建替えようとした。住宅金融公庫の申し込みをして弟と妹に父の土地を相続したいと申し出た。ところが弟と妹は協議書に印を押さない。
日頃、母親と所長の妻は折り合いが悪く、母親は長男の嫁の悪口を弟や妹に吹き込んでいる。どこの家にでもあることだが相続となると弟や妹のそれぞれの配偶者迄口出しして欲に駆られて土地の相続を認めてやる代わりに相当分の金を払ってくれとか、兄貴の嫁さんとお袋は犬猿の仲と聞く、何なら弟が後を継いで母親の面倒を見るから兄貴は相続放棄して家を出てくれなどと言う。
所長は住宅金融公庫の申し込みをあきらめて、自分の勤務先の住宅ローンの申し込みをしようとした。しかし結果は同じで底地の所有者が故人のままでは国のローンだろうと民間の銀行だろうと借入はできない。
兄弟は誤解して協力してくれないばかりか二言目には相当の金をくれと言う。母親は同居して面倒を見ているのに妻を目の敵にして俺を困らせる。銀行は銀行で20年勤務している俺に住宅ローンを貸してくれない。そんなに俺は信用がないのか。情けないと完璧に泣き上戸が出来上がってしまった。
しかし私には解決案があった。
所長に提案した。
「うちの銀行の住宅ローンを使いましょう。うちの銀行の株は時価で2000万円持ってるんですよね。株券と新築後の建物を保証会社に担保に入れましょう。土地は遺産分割協議書に相続人全員の同意が得られるまでペンディングにさせてもらいましょう。あとは母店の支店長は所長の同期ですから推薦を貰ってください。保証会社の役員は知り合いですから明日朝一で酒持ってあいさつに行ってきます。それできまりです。」
所長は本当にそれで借りることができるのだろうかと訝る。
実は私はこれと同じ手を使って顧客の住宅ローンの決裁をこの保証会社から取り付けている。言わば地上権だけを認めさせて住宅資金を調達する方法で違法でも何でもない。
保全面でも勤務先の銀行の名義の株券時価二千万円分を担保に差し出している。
第一、この所長が延滞したり焦げ付きを起こすはずがない。病気やけがで所長が死んでも質権設定させた生命保険から一括返済される。恥じることのない住宅資金の調達方法だ。私は所長を励ました。
こうして所長は無事新築の家に住めることになった。
その後私は転勤して出張所を離れたが数年後に所長の母上は他界され、遺産分割もスムースに運び弟や妹も素直に協議書ほかに押印し、所長は住宅ローンも一括返済したそうである。
どこの家庭にでもある遺産相続時の揉め事だが涙を流すよりは解決策を出した方がかっこいいに決まっている。