ボクが見た一億円の不動産詐欺事件
江戸時代天領だったある地方は、広大な農地に比して小作農が少なかったことから、明治以降に現れた大地主たちはそのまま、戦後の農地解放の時代をも、生き残り現在まで残った。
ボクは銀行員時代にその地主の1人に1億円の短期貸し付けを実行したことがある。 彼の名を仮にAさんとする。Aさんはお人好しで、酒好きで、普段はボクのような銀行員にも親切で紳士的に振舞う好々爺だった。
3か月間の短期手形で貸し付け、返済源は土地売却代金。年収は不動産賃貸料が年間3000万円。資金の使途は過去の借金の肩代わりだった。過去の借金とは、マンション建設資金の残金や遊興費であり、あまり感心した話ではないが「大地主の末裔にありがちなタイプ」としてためらうことなく融資に応じた。
事件は3か月後に起きた。返済期日に1億円の返済は叶わなかった。筆者は止む無く手形の書き換えを提案した。返済期限をもう3か月延長した。その上で1億円の返済源である土地売却取引が無くなった理由を訊ねた。Aさんの説明は以下の通りであった。
3か月前に酒場で知り合った不動産会社社長の男に紹介された人物と土地売却の話をした。相手の男はその時確かに「お宅の土地は1億円の価値がある」と語ったという。
取引の日にAさんは実印と権利書、印鑑証明書などを揃え、不動産会社事務所を訪問した。取引の前に祝いと称して酒を振舞われた。酒好きのAさんはついつい杯を重ねてしまった。良い気持ちで契約書に署名押印し、封筒に入れられた小切手と引き換えに相手の男に権利書を渡した。
酔いからさめて開封すると中から出てきたのは額面100万円の小切手だった。Aさんはすぐさま、不動産会社社長と相手に抗議したが、彼らはもとより結託していて受け付けなかった。
「Aさん。あなたはあの時土地代金100万円に同意して契約書にサインをしましたよね。私は確かに1億円の価値があると言ったが、それは造成して買い手がついての上での値段ですよ。今のあの土地は農地で100万円が適正だ。」
と取り合わない。
Aさんはその後 、準禁治産宣告を受け(現在は法律が変わり名称が変わっている)、銀行借り入れ手形は代理人弁護士の同意がなければできなくなった。半年ほどして別の所有物件を売却した金で借金を返済した。さらに1年ほど後に酒が原因で帰らぬ人となった。
Aさんが詐欺に遭い失った土地であるが、該当地番の土地が銀行の担保として数年後に提示された。すでにAさんと現在の所有者の間には数回の所有権移転がなされており、Aさんの土地を詐取した詐欺犯人とは全く関係のない善意の第三者の所有物件となっていた。
ボクは詐欺師たちに財産を奪われ、酒と心労で命を奪われたAさんを気の毒に思った。また、他人の財産と命を奪った悪党に対して強い怒りを覚えた。しかし、すべて後の祭りだ。
詐欺からAさんを救えなかったことはボクにとって長く心の傷となった。ひょっとするとAさんの運命は最初から決まっていたのかもしれない。その生活態度、交友関係、出入りしていた酒場など、Aさんを取り巻く環境が彼を邪悪な輩の陰謀にはめられる運命に導いたのかも知れない。
それは、ボク如きの正義感では、到底、太刀打ちできない現実だった。現実の銀行で起きていた出来事は「ドラマより奇なり」だった。
〈ボクの自慢〉同級生に漫画家がいると言うと聞いた人は皆「おーっ!」と驚く。
ボクには大学時代の同級生で、今も付き合いのある漫画作家がいる。最近は編集の仕事や絵本の制作をしているらしい。
「自由業だから、来た仕事は絶対に断らない。なかなか厳しい。」
と謙遜する。
ボクは永年、田舎の地方銀行に勤めたから、自営業者の金融機関の借り入れ審査が厳しいことをよく知っている。
それは実はボクを含めた金融機関の融資審査能力の未熟さと偏見によるものなのだが、友人は、職業欄に「漫画家」と書いて銀行の住宅ローンの審査に堂々と合格した。
僕なんか自分の勤務する銀行に住宅ローンの申し込みをして、職業欄に「当銀行職員」と書いたのに、一回目の住宅ローンの審査は不合格になった。理由は、クレジットの延滞一回と前年度の年収不足によるものだ。なんと情けない銀行員であることか。
友人は、なかなか交友関係が広い。自分がいまだに業界でいられるのは友人知人のおかげだと言う。業界の人はもとより、プロスポーツ関係者、芸能人、医者、弁護士、税理士、警察官僚、政府関係者に至るまで交友関係は広い。困った時に適切な助言や支援をしてくれる人がいると言う事は彼自身の人徳によるものだ。
こう言うと、彼はまた謙遜するか、照れるかに違いないがこれは事実だ。
「君は、いいよなあ。『印税生活』なんて夢みたいだ。」
とボクが言うと彼は大笑いした。そして、彼の業界がそんなに甘い世界ではないと言う事を説明してくれた。彼の謙遜かと思ったが、漫画家は大まじめに話してくれた。
ある時、ボクは図書館で彼の本を見つけた。それは『競売物件の賢い購入方法』という内容のノウハウ本だった。当時、銀行で民事執行手続を担当していたボクには最適の教科書だった。書店に問い合わせたが、既に絶版になっていた。後に彼は、「本名で出したのはあの本と絵本くらい。」と言った。
なぜ、ペンネームにするのかと尋ねると、エロ本作家だからと謙遜した。彼にそのペンネームで描いた本を数冊もらったことがあるが、とてもエロ本などと言う表現は似つかわしくない。多少、艶っぽい表現はあるものの、上品な色気が感じ取れる。
実際に同業の漫画家にも彼のファンがいると言うし、彼の住宅ローンの申し込みの前年辺りは随分、彼の作品はブレイクしたのではないかと思われる。金融機関の住宅ローン審査は前年の所得証明書のみが年収の判断材料であり、返済力の判定に使われるからだ。
ともあれ、田舎に帰った時、ボクは同級生の漫画家の自慢ばかりをしている。僕自身には人様に誇れる点はひとつもなくても、村の人たちに大威張りでこの漫画家の話をして意味もなく誇らしい気分になっている。
猛き災いの聖地(たけき わざわいのせいち) 『ホテルニュージャパン』〉
ボクなら、この宿は取らなかったと思う。当時、ホテルニュージャパンは、戦後、安藤組に襲撃された黒い噂の絶えない財界人横井英樹が買収していた。オーナーの悪い噂のみならず、1963年にはこのホテルの一階のニューラテンクォーターで力道山が村田勝志に刺されている。68年には、日本プロレスのユセフトルコと松岡巌鉄がグレート東郷をホテルの部屋に監禁し、リンチの上、傷害事件を起こしている。
高校の時から、プロレス大好き、勉強大嫌いのボクは、奇跡的に大学に合格し上京して、まず、先輩に案内してもらった場所はこの呪われた災いの聖地ホテルニュージャパンであった。
まぎれもなく、この場所で、横井英樹が、力道山が、村田勝志が、グレート東郷が、ユセフトルコが、松岡巌鉄が、 確かに生きて、怒って、わめいて、トラブっていたのに違いないのだ。まるでそこは、かつての戦場だった。多くの男たちの魂と魂が激しくぶつかりあった猛々しい夢のあとだった。
初めてその場に立って、ボクはなんとも言いようのない哀しいような懐かしいような錯覚をおぼえた。それは、ボクがバカでぐうたらの大学生だったから感じることが出来たのだろう。
だけど、もし、仮に、優秀な学生で医者になり、プロレスや事件に全く興味がない人間だったとしたら、上京してホテルニュージャパンに宿泊して命を落としていたのはこのボクだったのかも知れない。
悲惨なホテルニュージャパンの火災事故から、三十数年が立つ。亡くなった同級生とはさほど懇意ではなかったが、思い出すにつけ、ご両親の悲しみようが浮かんで来る。今更ながらだが、亡くなった同級生の御霊に慎んで哀悼の意を表したい。どうか安らかにと、願わずにいられない。
〈詐欺師と被害者〉詐欺は騙される方にも落ち度がある?
世の中には、人を騙して金儲けを企む悪人がいる。
詐欺師の事だが、民法の考え方では「詐欺は騙される方にも落ち度がある」というのがある。民法が受験科目の資格試験である「宅地建物取引士試験」や「行政書士試験」にはよく出題される。
例えば、「脅迫」と「詐欺」によって不動産を第三者名義にされた時に被害者(元の持ち主)の権利をどう守るかというふうに出題される。この答えは「脅迫」の場合は全面的に被害者の権利が守られるが、「詐欺」の場合は「善意の第三者に対しては対抗できない」としている。
つまり「詐欺とは知らずに詐欺師や詐欺師から不動産を購入した者からさらに転売された人」の方が詐欺師に騙された人より気の毒だから守ってあげようという考え方だ。
権利がぶつかり合った時、より気の毒な方の味方をするというわけだ。詐欺師に騙されるあんたにも落ち度があるでしょうという考えだ。筆者はこの考え方には納得いかない部分があるが、それこそ専門家が幾星霜かかって築き上げた法理論だから、文句は言うまい。
ただし、詐欺師は悪党だ。絶対、罰せられるべきだ。
筆者の銀行勤務時代の話だが、若い頃、営業担当者として退職一時金を預金にお預かりしたことから贔屓になってくれたお客がいた。彼は、地方のマスコミに永年勤務した人だった。紳士で退職時には社内でも相当な地位にいた人だった。報道機関にいながら事件現場や取材活動の経験はなく、反面、企業のオーガナイザーとして辣腕を振るった人物だと後から知った。
その人が、所有する市内一等地の遊休不動産を売った。自宅は郊外にあった。不動産取引後、彼は土地売却代金を全額預金すると電話をしてきた。訪問して筆者は奇異な感じがした。
土地代現金5000万円と、3通の約束手形、内訳は2000万円2通と1000万円1通。しかも、手形の期間は6ヶ月、9ヶ月、1ヶ年だ。聞けば買い手は市内不動産屋某で「金額が1億円なので半金半手にしてください」と言われてキャッシュ5000万円、手形5000万円を持ちかえったそうだ。
「半金半手」とは、半分を現金(振込)で、残り半分を手形で支払うという支払方法のことだ。
不動産取引で半金半手なんか聞いたことがない。半年から1年の手形なんか、詐欺師が土地を転売して逃亡するのに十分だ。筆者はすぐに弁護士さんに相談して手を打ちましょうと提案した。彼は6ヶ月様子を見ようと言った。それは甘いと筆者は思ったが彼には思惑がありそうだった。
果たして6ヶ月後、2000万円の約束手形は無事落ちた。しかし、案の定、残りの2通はやはり不渡り手形で返却された。付箋の付いた手形を筆者に示し彼は言った。
「私はあの土地は元々、5000万円以下の値打ちしかないと思っている。前の道は二項道路(建築基準法42条第2項に規定される狭い道の事。この道に面すると建築制限が付くので土地の価値は低い)だし、他の業者に聞いても5000万円はしないと言うことだった。彼は、一息ついて驚くべき事を言った。
「実は、あの不動産屋の某は私の小中学校時分からの友人だった。彼が何故今回こんな手の込んだ事をしたのか、私には分からない。彼にどんなバックが付いていて彼にどんなメリットがあるのか興味もない。ただ、私は遊休土地の固定資産税を納めるのが面倒だったし、あいつ(不動産屋某)の役に立てばそれでいい」
筆者は違和感を覚えたものの、彼に被害者意識がない事が救いだった。しかし、不動産屋某は2回の不渡りを出し、銀行取引停止処分となる前にこの町から姿を消した。行方は知れない。
不渡り理由は「資金不足」だった。
ヤフーニュースに見る『緑内障』の記事
気付けば失明寸前…健康診断でも見落とされる緑内障
中途失明の原因の1位である緑内障の患者数は40歳以上で20人に1人とされているが、自覚症状がなく、病気の進行に気が付くことができないため、分かった時は失明寸前というケースもある。春先に健康診断を実施する企業も多いが、そこで行われる視力検査だけでは発見しにくく、眼底検査などを受ける必要がある。症状や治療法、早期発見のポイントについて眼科医の平松類さんに解説してもらった。
■緑内障…40歳以上の20人に1人
緑内障は視野が徐々に欠けていく病気で、進行し続ければいずれ失明します。自覚症状がほとんどなく、労働安全衛生法に定められた、企業の定期健康診断の項目にある視力検査だけでは発見が難しいとされています。日本緑内障学会などが岐阜県多治見市で実施した疫学調査「多治見スタディ」では、40歳以上の20人に1人が緑内障というデータが得られました。
緑内障で失った視界を取り戻すことは現在の医療ではできません。進行を食い止めたり、遅らせたりするという治療しかないのです。そのために、早期に発見することが重要な病気であるといえます。
■“見えないこと”が見えない
「多治見スタディ」で緑内障とわかった患者のうち89.5%が、自分では気付いていませんでした。
これには目の仕組みが関係しています。人は例えば右目の視野が欠け始めても、左目でも物を見ているので、片方の視野が欠けた分を脳が補ってしまいます。ですから、緑内障が末期になるまで視力は保たれています。“見えないことが見えない”ことがこの病気の恐ろしさです。
徐々に病気が進行しているとき、「視力は良いのに何だか見えにくい」ということがあっても、老眼や目のかすみと思ってしまうことが多いのです。そのほか「虹が見えるように感じる」「夜になると少し頭が痛い」などといった自覚症状が出る人もいますが、はっきりと目の病気であるという疑いがもてるような症状はわずかです。
ですから、早期に発見しないと、気がついたらすでに残された視野がわずかな末期の状態で、そこから治療を進めても失明が回避できないということもあります。すでに片目の視野を失っているのに、もう片方で補っているので気づかないという人さえいます。
視力が良い間に病気が進んでしまうこともあり、厚生労働省の研究班の調査でも緑内障は中途失明原因の第1位となっています。
■緑内障の原因は不明
緑内障の原因はまだ、はっきりしたことはわかっていません。しかし、眼球の内圧である眼圧を下げると、緑内障の進行を抑制できることから、眼圧に原因の一つがあるのだろうと考えられています。
緑内障になりやすいリスクとしては「近視」や「遺伝的要因」が大きなものと考えられています。ですから、家族に緑内障の方がいる場合は特に注意が必要ですし、近視の人も注意が必要です。それ以外には「たばこ」「ストレス」もリスク因子として考えられています。
■健康診断でも見つけにくい
緑内障かどうかは視力を測ってもわかりません。原因の一つと考えられる眼圧を調べれば緑内障が発見できるかというと、それだけでも不十分です。
日本人の緑内障患者の多くは「正常眼圧緑内障」といって、眼圧が正常にもかかわらず、目の視神経が何らかの理由でダメージを受けて視野が失われているのです。はっきりとはわかっていませんが、血流の悪化などで発症するのではと考えられています。
■まずは眼底検査から
緑内障の発見には、まず眼底検査を受けることをおすすめします。眼底とは眼球の奥にある網膜のことで、瞳孔(眼の黒っぽい部分)を通して観察し、写真撮影することができます。
眼底検査で目の奥の視神経がダメージを受けているという所見が出れば、緑内障になりやすいと考えられ、さらに視野に関わる詳しい検査も行います。視野の4分の1程度が欠けていてもほとんどの人が気づかず、視野の半分ほどが欠けてやっと違和感を持つのが実情ですから、自己診断はまず無理でしょう。しかし、特殊な機械を使った検査では、自覚していない視野の欠損を発見することができます。
眼底検査は労働安全衛生法に定められた定期健康診断の項目には入っていません。しかし、希望すれば追加で行えるケースもあります。それがなかったとしても、40歳を超えたら、必ず1回は受けておいたほうがよいでしょう。眼科で検査を受ける場合、保険診療で視力や眼圧検査を含めて費用は概ね1500円~3000円程度です。
■早期発見なら点眼薬で治療
緑内障では眼圧が異常であっても正常であっても、眼圧を下げる治療に効果があります。 繰り返しになりますが、失った視野を回復することはできないでの、進行を止めたり、遅らせたりするという治療になります。
早期で発見されれば多くの場合、眼圧を下げる点眼治療のみで不自由なく生活を送ることができます。ただし、大切なのは目薬のさし方です。緑内障の薬はその効果が十分でないと、レーザー治療・手術が必要となったり、失明まで進行してしまったりする恐れもあります。
間違った目薬のさし方とは、目薬を目に入れてから「目をぱちぱちする」「眼球を動かす」という方法です。こうしてしまうと涙が分泌され、目薬が薄まってしまいます。
正しくは、目薬をさしたら静かに目を閉じ、目頭のあたりを押さえます。目頭を押さえることで、目薬が鼻を通り口へと流れていくのを防ぎます。鼻や口へと流れてしまうと効果が減ってしまいます。
点眼治療で改善が見られない場合は、眼圧を下げるための手術を行うことがあります。最近ではこれまでより時間も短く、負担の少ない手術が可能になりました。
■40歳を超えたら一度は検査を
毎年、年度初めは健康診断を行う企業が多い時期です。働き盛りの40代は老眼が始まったり、長時間のパソコンの作業で目がかすんだりすることが多いと思います。緑内障は何よりも早期発見が重要ですので、目の不調を少しでも感じたら、老眼や目の疲れと決め付けず、一度は眼底検査などを受けたり、眼科医に相談したりしてください。
プロフィル
平松 類(ひらまつ・るい) 1978年、愛知県田原市生まれ。医学博士。昭和大学医学部卒業。福島県郡山市今泉西病院、山形県米沢市三友堂病院眼科科長・彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長などを経て、現在、二本松眼科病院医員(東京都江戸川区)。著書に『緑内障の最新治療』(時事通信出版局)など。