昔、東京12チャンネルの世界のプロレスでアントニオロッカの試合を見た。今でもYouTubeでロッカとロジャース、ロッカとルー・テーズ戦なんかが見られてうれしい。ロッカは裸足で戦う。爬虫類めいた風貌。強くて、力が強くて、ヘビー級なのに空中戦が得意。たまらない往年の名レスラーだ。
日本人レスラーで、全米サーキット中「トウキョー・トム」と呼ばれたレスラーがいた。彼は、若かったが、ルー・セッズ(テーズ)の秘蔵っ子で長身のキラー・コワルスキーという選手に憧れた。
菜食主義者としても有名なキラー・コワルスキーはもともと技巧派かつストロングスタイルの正当派レスラーであった。仲の良いレスラー仲間のユーコン・エリックと対戦した時、トップロープからのニードロップにより、誤ってエリックの耳をそぎ落としてしまった。その事故以来、肉が食えなくなったというエピソードは、じつは、梶原一騎先生の創作である。プロレス研究家の流智美氏が直接聞いたインタビューによるとダイエットのためだったと言う。
流氏「コワルスキーは、そのエピソードを私(流氏)から聞かされると呵々大笑し、『誰がそんなフェイクを言った?』と笑顔を見せた。」
さて、トウキョー・トムだが、全米デビュー用のスチール写真撮影では大好きなミスター・キラー・コワルスキーを真似たポーズをした。リングネームも『キラー・イノキ』に変えさせた。後のアントニオ猪木のアメリカ修行時代のことである。
174㎝ 82㎏ 40歳 面白い この人は人生を楽しんでいる。
格闘技世界一決定戦のため、来日したモハメッド・アリの有名な言葉。
日本へエキシビションマッチに来たと思っていたアリは、驚き、怯え、マネージャーに当たり散らし、
「猪木は狂人か?リングで殺しあいをさせたいのか!」
と言ったらしい。
ブレーン・クロー、ストマック・クロー、ドロップ・キックの名手。AWAチャンピオンにもなっている。来日時はヒール(悪役)としての凄味を演じて見せることに大成功したが、年齢は40歳を越え、母国ではベビーフェイス(善玉)であった。最も、プロレスラーらしい外人レスラーだった。エリックのアイアン・クローを受けてこめかみから、噴水のように流血する馬場さんを見て小学生のボクは驚いた。翌週、学校で山本しょうご君にストマック・クローをかけたら、しょうちゃんは「腹が、こちょびたいが~(こそばゆい)‼」と言ってげらげら笑っていた。
力道山の最後の弟子グレート小鹿は米国修業時代の思い出を語っている。
「アメリカのテキサス州ダラスのプロレスラーはエリックのホテルに部屋を与えられ、エリックのレストランで食事をし、エリックのスーパーマーケットで買い物をし、エリックの銀行の小切手でファイトマネーを支払われていた。」
リングネームはフリッツ・フォン・エリック。ベルリン生まれのドイツ人と言うギミック。引退後は全米で最も有名なプロモーター。68歳で亡くなったが、地元でエリック帝国とまで言われた一大経済圏を作った。現役時代、鉄の爪で対戦相手の胃袋やこめかみを、散々わしづかみにした彼は、引退後はアイアンクローで巨万の富をつかみ取った。