昔、小学生が当時の文豪三島由紀夫に「先生は、素晴らしい小説家なのになぜ芥川賞を取れないのですか。」と問うたらしいが、「僕は、芥川賞の選考委員なので、芥川賞は取れないんだよ。」と答えたと言う。

同じような話が直木賞にあるが、直木賞は「新人作家に与える。」という縛りは薄いようだ。

姿三四郎」、「柔道水滸伝」で有名な富田常雄は、講道館創成期の柔道家富田常次郎の長男にして、自身も柔道五段、講道館の畳を揺り籠に育ったという人だが、大衆小説の名人でもある。名を上げ、功成し遂げた後に、直木賞受賞の話が持ち上がった。これは、出版不況による売り上げ低迷を打開すべくという業界の話題作りの狙いもあったと言うが、受賞の知らせを聞いた富田常雄は信じなかったと言う。
「俺が、今更、直木賞?」、「選考委員になれの間違いじゃあないのか?」と、訝った。


しかし、選考委員で知人の舟橋聖一が「俺が絶対、富田を納得させて受賞させる。刺し違えてでもあいつを直木賞作家にする。」と語ったと言う。そんなに、富田常雄は受賞が嫌だったのか?