バイクで一生を得る(上)

僕が銀行員をしていたのはもうずいぶん前だが

当時の同僚で未だに連絡しあう人が一人だけいる。

 

その人は温厚でついぞ大きな声を出すのを職場で見せたことがない。

上司や経営側がどんなに無理難題を吹っ掛けても淡々と自分の仕事をこなしていた

後輩には好かれていたが上司からの評価は決して高くはなかった。

 

彼は大型のスクーターで通勤していた

驚くことに免許取得から四十年余り無事故無違反だと言っていた

 

過日、出張の際、彼の大型バイクの後ろに乗せてもらった事がある

仕事は無事終わり帰り道の事である、後方から二十台くらいの一団のバイクが追い抜いて行った

最後尾の一台が僕らのバイクを危険な運転で抜いて行った

蛇行しながら追い抜きざまいきなり前につけたのである。

 

とっさに減速して路肩に逃れたがうっかりしていると追突しそうな状況であった。

 

次の瞬間、彼はバイクを加速させた。あっという間に一団の先頭の横につけ並走した

先頭の運転手に左手で路肩によれと指示をした

相手の運転者は右指でOKマークをし次に左手を高く上げ停車の合図を後方にした

 

先頭のバイクとボクらのバイクが路肩に停車すると一団のバイクは次々と止まった。そして僕と同僚は20人くらいに取り囲まれた。

(なんだ!この漫画みたいな展開は?どうすんだ!暴走族相手に喧嘩売ってんのか?)

軟弱中年の僕はパニくった。

 

先頭にいた男がフルフェイスのヘルメットを脱ぐと僕の同僚もヘルメットを脱いだ。先頭の男は不敵な表情で笑いながら僕らに近づいてきた。(怖い!どうすんだよ~)

僕は腰が抜けた。

 

(下)に続く

 

日本のバイク遺産 Z伝 (上) (Motor Magazine Mook)