被災地支援で気を付けたい〈方言が招いた失言暴言〉

 幼稚園 2019年 07 月号 [雑誌]
 
東日本大震災の時、某県の地方公務員の中から有志ボランティアが被災地に派遣された時のことである。彼らは志願して出向いた人たちだから、その志は尊い。しかし、後が悪かった。被災地復興支援の日程が終了し、打ち上げの為の、ささやかな宴が催された。
 
 その時、一人の地方公務員が発した言葉が物議を醸し出した。

「姉ちゃん、酒はねえんかのう?」

 言った方はむろん悪気があったわけではない。田舎者の粗忽さと言えばそれまでだが、世間の反発たるや、すざまじいものだった。「酒を飲むために被災地に行ったのか?」、「女性を差別しているようで不愉快。」、「被災者を侮辱した発言だ。」等々の声が聞こえた。
 
 彼の被災地に対する真摯な思い、公務を休んでまで被災者の為に働いた尊い行為も、砕けた方言と時節を読めない思考で台無しになってしまった。
 今回の熊本地震でも、失言・暴言が話題になっている。例えば、おおさか維新の会共同代表・片山虎之助氏は岡山県笠岡市出身の八十歳になる経験豊富な代議士である。誠実で義理に熱い笠岡地方の有権者に絶対の信頼がある・・・と、思っていたところが、熊本地震について「タイミングのいい地震」などと言う大暴言を発した。

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 筆者も岡山県民の一人としてまことに恥ずかしい。片山代議士に成り代わってお詫び申し上げたいぐらいである。 
 片山議員の暴言はあくまで「暴言」だが、その一方で、必ずしも「暴言」のつもりではないのに、暴言として受け取られてしまうことは、岡山弁ではめずらしくない。岡山に限った話ではないかもしれないが、地方特有の言い回しや口調が、一般的に悪印象を与えてしまうのだ。
 
 例えば、岡山県のタクシー会社・岡山交通では、他県からの乗客を乗せた時には、標準語での受け答えをするように指導している。岡山弁の中に他県の人には誤解されかねない方言や語調が多々あるからだ。
 
 十七歳だった! (集英社文庫)東京生まれの作家・原田宗典さんは岡山県の高校に進学して、初めて岡山弁に触れて驚いたという。幼稚園児が自分のことを「わし」、相手のことを「おめえ」と呼ぶ。例えば、

「わしゃー、幼稚園へ行かにゃーならんけんのう。おめえは、どうするんならー?」。

 別に喧嘩を売っているのではない。訳すと、「僕は幼稚園に行かなきゃいけないんだけど、君はどうするの?」となる。
 
 被災地で苦しい思いをしている人たちがたくさんいる。誤解を招くような言葉使いは特に慎みたい。例え、それが馴れ親しんだ方言であっても。方言は放言に通じ、暴言にもなるときがある。
 
 被災地で気をつけるべき意外な注意点かもしれない。