本当は重役会と言わずに常務会と言うんだけど一般には何のことか通じないだろうと思って銀行重役会などという陳腐なタイトルにした。
頭取がわざわざ常務会に呼び出してボクに説教じみたことを言った事がある。
「お前は若い時からフライングが多かった。先走ったり、稟議違反はしょっちゅうだった。」
ボクはその時、腹の中で( とっちゃん坊やの二代目の馬鹿が何を言うか )などと思っていた。
債権回収時はまず利息から優先して取れとやかましく言われた。それは理屈の上では当たり前のことだし、とどのつまりバルクセールで買取会社に叩き売るなら利息だけ取って元金を少しでも多く残した方が売値が上がる、そのくらいのことは誰でも知っている。
しかし、いざ、貸金回収の現場に立つと、それは甘いと言うことがよく分かる。
不良債務者と言うが人格まで全否定することはボクにはできない。数多くの倒産現場に立った時、百人の債務者がいれば、百のケースのシークエンスが発生している。
お前は債務者を甘やかして一人良い恰好したかっただけだ。二代目とっちゃん坊や頭取はそう言ってボクを批難した。
この馬鹿野郎‼
ボクの中で何かがブチ切れた。
そばにあった常務会昼食用の重箱をつかむと頭取に投げつけた。
重箱は頭取の顔面に当たった。ガツンと衝撃音。
寿司や高級料理が常務会議室の床に散った。
そこでボクは目が覚めた。
次の日、銀行を退職した。