子供の頃のボクの過ち   (この話はフィクションです。)

谷啓 笑いのツボ 人生のツボ

 

子供の頃、貸本屋が全盛であった。そういう貸本屋には、赤本、貸本、古本だけでなく

少年向け漫画月刊誌もおかれていた。

毎月、新刊が出ると貸本屋に駆けつけて真新しい月刊誌を借りて帰った。

ある時、借りに行くのが3日ほど遅れて月刊誌を借りて帰って、家で開くと官製はがきの裏に谷啓の似顔絵が描かれたものが入っていた。

その雑誌には毎月似顔絵投稿コーナーが掲載されており、プロの画家が描いた見本が載っており、読者はそれを模写してはがきで投稿していた。

審査があり入選すると商品がもらえた。

谷啓の似顔絵は完璧に描かれていた。投稿すれば入選するのは間違いないと思った。

はがきの表にはその月刊誌の出版社の住所と名前、そして似顔絵コーナー御中まで達筆で記されていた。

投稿者の住所氏名は未記入だった。

 

兄弟に事情を話した。彼は貸本屋のおじさんに聞いたらお前の前に月刊誌を借りた人の名前が分かるはずだから忘れものですと届けて来いと言われた。

 

しかし、ボクの心の中の悪魔がボクにささやいた。

「そこにお前の名前と住所を書いてポストに入れろ。決してばれない。ポストに入れるのを忘れたやつが悪いんだ。絶対ばれない。そして必ず入選する。商品を自分のものにしろ。」

 

ボクは悪い心に負けて悪魔の誘惑に従ってしまった。

二か月後、その雑誌の似顔絵コーナーに入選者としてボクの名前が載った。

出版社の名前の刻印された万年筆が賞品として送られてきた。

 

兄弟がボクに言った。

 

「お前を軽蔑する。きっといつか罰が当たるぞ。」

 

その夜、警官がボクを窃盗罪で逮捕しに訪ねて来たという夢を見た。

60年以上経つが今でも見る。

 

 

                    (この話はフィクションです。)