第二地方銀行と言う金融機関のカテゴリーの中に旧相互銀行があった。
あったと過去形なのは相互銀行という金融機関はもう存在していないからだ。
昔の無尽会社に起源を持つことが多い。
無尽(むじん)と言っても分からない場合、講(こう)と言ってもますますわからないだろうと思う。
若い人におもねる気は毛頭ないから辞書でも引いてもらいたい。
僕が22歳の時、就職した第二地銀は相互銀行で無尽会社のなりあがったものだった。
僕もバカだが社員は皆バカだった。
銀行に入ってすぐ先輩から「プライムレートってなんだ?」と尋ねられた。私は冗談を言っているのかと思った。別の先輩が「多分、桃の缶詰の事だ。」と言った。バカだ。
集金係の定年間際の行員は毎日集金の日計表が合わない。小銭の入った布袋を持っていた。集金して金が余るとその袋の中に余った金を入れ、不足するとその中から出して
店の出納係に渡していた。犯罪だ。
自家用車通勤の行員で銀行の帰りに飲酒運転で検問で捕まったのがいた。
勤めていた相互銀行の社長(銀行は代表者を頭取と言うが無尽は社長と呼んだ。)の親戚であったため翌日、県警に詫びを入れて交通違反をもみ消した。
翌日の晩この男はまた飲酒運転で同じ場所で々警官に捕まった。この男の顔を見て警官は言った。「またお前か!さっさと行ってくれ。捕まえてもまたもみ消すに決まっているから。」
警官もバカだ。
僕は通勤にホンダスーパーカブを使っていた。この支店の支店長代理と言う男がある時載せて帰れと言った。スーパーカブにタンデムするほど貧乏なのか?バスかタクシーで帰れよと思いながら載せてやった。
帰り道、その支店のメイン融資先の木工品工場の広い敷地の前を通過した。工場の玄関前の広場で大勢の男たちが集まって焚火をしていた。木工品の材料を燃やしていた。炎は木工会社の建物の二階くらいまで上がっていた。あまりの異様さに工場の前でカブを停車させて見ていた。
「はは、、。楽しそうだな。キャンプファイヤーでもしてるのか?」カブの荷台で支店長代理は呑気に呟いた。
僕はストライキか暴動の現場みたいな怖さを感じた。
次の日、木工会社の手形が落ちず二回目の不渡りと言うことで当社の破綻が決定した。
支店長は支店長代理に尋ねた。
「君、ここんとこ、あの会社なんか変わったことなかったか?」
「いいえ。特に変わったことはありません。昨日も前を通って帰りましたが従業員が和気あいあいとキャンプファイヤーで楽しんでました。」と支店長代理は能天気に応じていた。
僕の目には倒産前夜に債権者や従業員が経営者の異変に感づいて取り付け騒動を起こしたようにしか見えなかった。支店長代理が一番バカだ。